五徳猫

七とくの舞をふたつわすれて、五徳の官者と言ひしためしもあれば、
この猫もいかなることをか忘れけんと、夢の中に思ひぬ。<画図百器徒然袋>


火鉢や炉の中に立てて、釜や鉄瓶やヤカンなどを載せる道具を「五徳」と
云いますが、常に囲炉裏や火鉢の傍に寝そべって、人が居なくなると
勝手に自分で火を起こす猫の怪を、「五徳猫」と云います。

「平家物語」の作者とされる信濃前司行長は、稽古の誉れある人物でしたが
楽府の御論議に召された際、舞曲「七徳の舞」のうち、二つの徳が何であったかを
忘れてしまい、「五徳の冠者」と不名誉なアダ名を付けられ、憂いのあまり学問を
捨てて遁世したという「徒然草」第二百二十六段の説話に、この五徳の妖怪を
なぞらえた解説が、「画図百器徒然袋」の絵に添えられています。

古くは「百鬼夜行絵巻」に、五徳を被り火吹き竹を吹きながら練り歩く、獣の姿
をした五徳の妖怪が描かれています。

<参考文献:「画図百鬼夜行」国書刊行会>