牛鬼

 

石は流れる、木の葉は沈む、牛は嘶き、馬吼ゆる。

      

女に化けて人をだまし、水際から襲う水怪。牛の頭部に、蜘蛛のような多足を

持つと言われます。性格は至って執念深く、狙った獲物は逃さぬとされますが、

助けられる事があれば、しばしば恩返しもしたりするそうです。

また牛鬼は「凶眼」という能力を持ち、凶眼に射抜かれた者は疲労死します。

熊野地方ではそれを「影を呑まれる」と言い顕わし、回避するには冒頭の

「石は流れる、木の葉は沈む〜」という句を唱えれば良いそうな。

凶悪なイメージが強いですが、宇和島では魔除けの祭神として奉られています。

水神の神格を持つ「蜘蛛」が水性を司るように、大地の豊饒の象徴たる「牛」も

また、水と深い関わりがあり、水中に住まう牛の伝承は日本各地に伝えられています。

「蜘蛛」の肉体と「牛」の頭部を持つ「牛鬼」の姿は、水神の象徴なのかも知れません。

<参考文献:「日本動物民俗誌」中村禎里/著 海鳴社 
「鬼」新紀元社>